真っ白な空間で、杏奈は目を覚ました。
 病棟のベッドの上で身体を動かそうとすれば、無数の管で機械に繋がれている。血の気の悪い顔には、呼吸器が押し当てられていて逆に息苦しい。
 
 ぼんやりする頭で状況を整理しようとしたら、傍らに杏奈を見守るその人の姿に気づいてしまった。
 
 できれば、今はまだ会いたくなかった。
 
 
 
「慧……?」
 
 
 やつれた顔の彼女の幼馴染みが、変わり果てた姿の彼女を見下ろしている。その視線が、彼女にはとても辛かった。
 
 彼に今までついてたいろんな嘘が、バレてしまう。彼は何も変わらないと言ってくれたけど、そんなことはなかった。現実はそうはいかなくて、見かけだけのハリボテはすぐに崩れてしまった。
 せめて幼馴染みには、こんな姿、見せたくなかった。
 
 
 
 呼吸器に繋がれた自身の顔を、彼から逸らすので精一杯。
 
 それでも彼の方は、今の彼女から目を逸らさずに向き合おうとした。変わり果てた姿を前にしても、声が震えないように力を込めた。
 
 
 
 
「医者からは、まだ何も聞いてない。あなたの口から聞きたいから」
 
 
 だから杏奈が目を覚ますまで、彼女の傍でずっと待ち続けた。気づけば空の色も夕暮れに差し掛かる。
 
 二人きりの病室で、彼らは神妙な表情で見つめ合う。その目に浮かぶ悲しい色も、わかっている。
 
 
「話してくれるわよね。杏奈」
 
 
 
 もうすぐこの空の色も、幼馴染みの顔も見られなくなるなんて言ったら、彼はどんな顔をしてくれるんだろう。また冗談だろと笑い飛ばしてくれるだろうか。
 こんなに悲しい時間を二人で過ごすなんて、あの頃には考えられなかった。