吹っ切れた慧は、この信用ならない男にお店での杏奈とのことを、酒の勢いのままに話した。キツいアルコールの香りが思考を重くさせるが、もやもやとした気持ちは少し軽くなっていた。
 
 スーツの上着を脱いだ男は、ペットボトルを片手に彼の話を終始穏やかな表情で聞いていた。彼のマシンガンのような愚痴が一通り落ち着くと、一拍置いて斎が頷いた。
 
 
「なるほど。再会した幼馴染みに距離を置かれて、慧ちゃんは傷心の身と言うわけか」
 
「……別に」
 
「うん。その心の傷の穴埋めは、この後二人でベッドの中でゆっくりと」
 
「話聞いてたの?」
 
「えー、最初に誘ってきたのは慧ちゃんの方じゃんか」
 
「それとこれとは別よ」
 
 つんとした態度もなかなか憎めない。惚れた弱みというやつか。そっぽを向いた横顔さえ、見惚れてしまうのだから。結局はそう納得するしかなくて、苦笑した。
 
 
「その幼馴染みとはもう会わないつもりなの?」
 
「……あの娘が、それを願うのよ」
 
「俺に今日話したこと、ちゃんと伝えたの?」
 
 
 ここまでこの男に散々愚痴り倒したことを、そっくりそのまま伝えられただろうか。あの娘にぶつける前から怖気づいていなかったか。
 目の前の男からつい視線を逸らしてしまうのは、たぶん図星だから。向き合おうとして、自分でブレーキを踏んでいた。せっかくパリコレからあの娘に会いに来たのに、こんなことじゃ彼の腹の虫が収まらない。
 
 
 
「それなら仕方ないし、まだならけじめつけないと。惚れた方が負けなんだから」
 
 
 惚れた方が負け。
 本当にそうなんだと、恋に恋して、つくづく思う。
 
 
 そんな本音を本気の恋に向き合う彼には悟られないように、静かに目を閉じる。
 目を開けたら、今日は最後まで彼の背中を押してあげよう。斎は、そう決めていた。
 
 
 幼い彼と昔に出会っていたのが、自分だったらよかったのに。
 
 
 
 
「何よ。ヤリチ○コのくせに」
 
「いい加減いろんな利用規約に引っかかりそうだからやめよ? そろそろ警告とか来たらヤバいから真面目にやめとこ?」