「幼馴染みなんだろ。その娘のこと、ずっと好きだったんだって。それなら全然どうでもよくなんかないだろ?」
 
 酔いが醒めやらない彼は、普段よりずっとわかりやすい反応をする。しかし借りてきた猫のようにだんまりな彼には、少し面白くない。
 
 
「正直羨ましいんだよ。君にそこまで愛されてるその娘のことが。俺が昔に慧ちゃんと出会ってたら、その娘みたいに守ってあげられたのに」
 
「嘘。私を守ってくれるのは、昔も今もあの娘だけなんだから」
 
 ハッとする頃には、本音は漏れていた。
 意地っ張りなのに素直で詰めが甘い。むくれた慧を見ていると、やはり自分が割り込む隙間はないのだなと、悔しさを噛み締める。
 


「あーあ。やっぱり好きなんじゃん。ノロケかよ」
 
「……うっさい」
 
 
 ……否定はしないんだ。あまりにもくだらないノロケ話を聞かされてばかりだから、彼も心中穏やかではいられない。隙を見て襲ってやろうなんて底意地の悪さが出てくる。
 
 でもそれじゃせっかくの"意外と真摯な男"という設定が台無しになるから、ここではおとなしく仮面を被っておくとしよう。