夜がだんだんと深まるにつれ、あの娘にぶつけてしまった言葉が重く、呪いのように頭に降りかかる。
「いつきく〜ん。もう帰っちゃうのぉ?」
「せっかくの金曜日なんだから、もうちょっと飲んで行きましょうよぉ〜」
「えぇ、困ったなぁ。でもまあ、可愛い娘の頼みなら断れないしね」
ネオンの街で、同僚との付き合いにも積極的である斎は、この日も週末が来ると仲のいい同僚達数人と帰社後の飲み会に参加していた。
飲み会プランを満喫して潮時かと思われたが、大半の女子から彼の帰りを惜しまれているところに、スーツの襟を突然後ろ手に掴まれた。
「見つけた。ヤリチ○コ」
「うわっ! えっ!? 慧ちゃん!?」
絡まれたかと斎が振り返ると、そこには見惚れるほど白い肌を露出した格好の慧の姿があった。
正直同僚の女の子達が霞むほど、ヘアメイクまで整えた慧に胸掴まれるどころが抉られてしまう。酒には強いと自負していたが、急に酔いが回ってしまっただろうか?
とにかくこの状況をどうにかしなければ、他の同僚が呆然と二人の様子を見ている。
いたたまれない空気の中、斎は無理やり彼を引き剥がすことはせず落ち着いて彼に質問をする。
「な、なんでここに? つか酒臭っ、もしかして、酔ってんの……?」
「斎君、この人誰なの?」
「あら、私と彼がどういう関係か知りたいの?」
会ってからほんのり頬が赤いのは、どうやらこの辺りで一人で飲んでいたらしい。いつものドライな彼らしくもなく、斎の腕にくっついている姿はいつにも増して魅力的だ。酒と彼のせいで、軽い頭はどうにかなってしまいそうだ。
さらに酔った慧は、まるで悪戯っ子のように赤い唇をにんまりと曲げた。斎より僅かに背の低い彼は、おもむろに彼の首に華奢な腕を回す。
ほんのりと彼がつける香水の香りが鼻を突くと、彼から唇を奪われた。
「コウイウコト♡」
周囲の目もくれず、慧の大胆な行動には斎も目を丸くする。いつもならこちらからしつこく誘っても張り倒されて相手にされないというのに。
これは夢だろうか? 酒のせいでおかしな幻覚を見ているのだと何度も瞬きを繰り返す。
「なななななにしてんの慧ちゃん!? 自分が今何したかわかってんの!?」
「いいからホテルでもあんたの部屋でもいいから運んでよ。それかここでゲロ吐いてやろうか?」
「わかったからここでゲロはやめて! 頼むから!」
慧を介抱するために斎は仕方なく飲みに来た同僚達と別れ、彼を肩に担いでネオン街を後にした。
知り合いのようである二人の背中を見送る同僚達は、呆然としながらも斎を連れ去った美女を見てこんな噂をした。
「ねえあれ、もしかしてモデルのケイじゃ……」
「ええ、まさかぁ」
彼の住むマンションに彼を休ませるまで、泥酔する彼の横顔はどこか寂しそうにしていた。

