雨の日、唯さんがたまたま通りかからなかったら、私はどうしていただろうか。

あの後、ひとしきり泣いて唯さんが私の鳴り止まない沙羅からの電話をとった。

「由真ちゃんの知り合いです。はい、たまたま会って…。ええ、今落ち着いてきたんで、はい。家まで送るから大丈夫ですよ。後で家についたら電話掛けさせるように言っておくんで。はい、じゃ」

私の携帯を切り唯さんはニコリと笑った。

「大丈夫?立てる?」
「はい…」

雨が強くてお互いびしょ濡れ状態だった。というか、唯さんをびしょ濡れにさせてしまっていたのだけど唯さんは気にすることなく手を差し出した。

立ち上がると唯さんは落としていた傘を拾って「これから更に濡れるよりはマシだからね」と傘を差す。

「由真ちゃんの家まで送り届けると約束しちゃったわけだし、沙羅さんも心配しているだろうから今日は送るね。というか、俺も心配」
「はい…」
「どっち?」
「あ…こっちです」

歩きだすと唯さんは私を見てにっこり笑う。

「もし吐き出し足りないなら今吐き出しちゃいなよ」
「…え?」

唯さんは全然悪ぶれずに言う。

無理に話さなくていいとか、干渉しないとかそういう言葉がないからか、私がもともと吐き出したかったからか、それが心地良いと思った。