橘がリードから口を話した。シュッと軽く息づかいが聞こえた。



「……どー?これ、お礼になったかな?」


私は、こくりと。頷いて、下を向くことしか出来なかった。


涙が出そうだった。

こんな、胸が締め付けられる演奏を聴いたのは、いつぶりだろうか。


「おー良かった良かったー。じゃあさー、これからも俺にピアノ弾いてくんね?琴葉ちゃんー。お礼に俺もサックス吹くからさー」

ましてや、こんなチャラい男の演奏に……
って



「っはぁ?!」


声を荒げて直後、後悔した。


「おーおー。ずいぶん威勢がいいじゃねえか琴葉ちゃん。じゃ、これは二人だけの約束なー。忘れるんじゃねえぞ?」


誰がやるといった。勝手に話進めるな。ねぇ聞いてる?いや聞いてないねごめんね知ってた。てゆーか名前で呼ぶな気持ち悪い。

「じゃーまた明日」


そう言って橘は元音楽室の空いていた引き戸から出て……あー、そこが空いていたのか。


ガラガラガラガラガラガラ、ピシャリと。

扉を閉めていってしまった。