その音は。とても繊細な音だった。 きめ細やかで、楽器全体が歌っている。 そんな、音。 あー、だめだ。私語彙力がないからな。 でも、私にはそうとしか言えない、音。 少しだけ、ヴァイオリンに似た響きのその音。 やっぱり男なんだと思う、その息の長さ。 金色のキィの上を素早く、駆け上がるように動く細くて長い、骨ばった指。 何て曲だろう。名前どころか、聴いたことさえない。 でも、どうしようもなく美しくて 息をするのも忘れていた。