正直、フィルハーモニーを仕切っている指揮者のフレデリックとは馬が合わなかった。
『違う!ここは私がダイナミックに弾きたいのよ!ついてきて!』
『コトハ。これ以上の音量は無理だ。君に背負いきれるかい?私たちのフォルテシモが』
『馬鹿言わないで。私はコトハ・イイヅカよ?』
『だとしても、だ。これ以上の大音量は観客にも負担がかかると思わないかい?』
『なによ。聴衆を舐め腐るんじゃないわ』
ここは私が主役。私がプリンセスのはずでしょう?
脚本家は作曲者であって、あなたはお飾りじゃない。
まだ若い新人のくせに。
『あんたみたいなオーケストラの真似事した出来ないような指揮者が出しゃばるんじゃないわよ』
きつく言いすぎた、なんて微塵も思わなかった。
『……もういい。お前みたいな能無しプリンセスは、うんざりだ』
それっきり。
指揮者は合奏練習に来なくなった。