私の反応を楽しんでいたのだろう。
何て悪趣味だ。
「先生、性格悪い」
「心外だな」
私の呟きに藤堂先生は笑いをこらえたような表情で返事をしてくる。
残念だったのかホッとしたのかよくわからない気持ちで悶々としていると、「終わったぞ」と水道を止めた。
「それじゃぁ。今日はごちそうさま」
「いいえ」
まだムッとした気持ちが残ったまま玄関で靴を履く藤堂先生を見送っていると、ドアノブに手をかけた先生が何かを思い出したように振り返った。
「そうだ、朝比奈」
「なんでしょう?」
「やっぱりもう少し警戒心を持ったほうがいいぞ」
「え?」
警戒心? 何を突然。
ポカンとしていると、藤堂先生は腰に手を当てて小さい子供に諭すような口調で言ってくる。
「途中まで俺っていう男が部屋にいること意識してなかったろ?」
「それは……」
「しかもその時、一度意識したくせにそれはないと消し去った」
その通りだ。もう、全てお見通しではないか。
恐ろしいくらいに私の様子が丸分かりで、恥ずかしさで一杯になる。なにも言えず、ソロッと目をそらした。
「だからって、どうして先生に警戒心をもたないといけないんですか?」
そう聞くと、「お前な、そういうところだって言ってるんだよ」と呆れ声を出された。
そういうところってどういうところよ。
すると突然、先生が私の後頭部を掴み、グイッと顔をあげさせる。
見上げた先には、思ったよりも間近に藤堂先生の顔があった。
「俺も、男なんだよ」
ニヤリと笑って、玄関を出ていった。



