あまりにも自然な動きのため、シャンプーの香りがするまで側に来たことに気が付かなかった。
見上げた先にいるのは藤堂先生だってわかっているのに、いつもと違うから妙にソワソワして違和感を感じてしまう。
なんだか、知らない人のようだ。


「なんだ?」


ついジロジロと見てしまい、サッと視線を反らす。それを覗き込んでこようとするので、手にしていたお皿をグイッと先生に押し付けた。


「何でもないです。お皿持っていってください」
「はいよ」


そう返事をしてお皿やお箸を並べてくれる後ろ姿を眺めていると、ハッととんでもないことに気がついてしまった。


「しまった……」
「あ? 何か言ったか?」
「いえ、何でもないです!」


いやいや、何でもなくない! あるよ!
だってよくよく考えれば、この部屋に二人きりなのだ。
この狭い1LDKに、藤堂先生と二人。
お腹が空いたと訪ねられ、仕方ないなぁと自然と招き入れたけれど、これっていいの?
彼氏でもない、しかも知り合って間もない男性をホイホイ部屋に入れる女ってどうよ!?
ちょっと無防備すぎた!?


「朝比奈? 食わねぇの?」
「あ、はい! 食べます食べます!」


先生に声をかけられて、思わずビクッと肩を震わせる。