あれから、真紀さんは水島総合病院の手伝いを止めた。麗香さんは何度かマンションやクリニックまで来たようだけど、冷たくあしらわれると悔しげに帰っていき、そのうちにやってくる頻度は減っていった。
私の方も、秋のイベントが無事に終わり怒濤の忙しさからは少しだけ解放された。
やっと、私達にも平穏が訪れたのだと笑い合っていたのだが、やはりそうは問屋が卸さないみたいだ。
「朝比奈里桜さんでございますね」
久しぶりに残業もなく、真紀さんの部屋で夕飯でも作って待っていようかなと思いながら会社を出ると、黒いスーツを着た男性に声をかけられた。
不審のあまり、身を固くして警戒をする。
「どなたですか?」
「真紀さんのお父様の部下です。あなた様を連れてくるようにと」
「真紀さんのお父さん?」
てっきり麗香さんの差し金か何かかと思ったため、意外な名前に目を丸くする。



