目をそらして俯くと、タクシーはマンションの前にたどり着いた。藤堂先生は会計を済ませて私の手を繋いだままタクシーを降りる。

すると、マンション門前に心さんが立っていたのだ。


「里桜ちゃん」


心さんの姿に慌てて藤堂先生の手を離そうとするが、それはしっかりと握られたままで腕が揺れるだけだった。


「先生っ!」


声をかけて訴えるが、藤堂先生は心さんを見ているだけだ。


「俺が心を呼んだんだ」
「え……」


藤堂先生が心さんを?
心さんは頷いてからため息をついた。


「とりあえず、真紀の部屋に上げてくれない? ここじゃぁ話しにくいだろう?」
「そうだな」


はた目から見た状況は決して良いとは思えないのに、二人から醸し出される雰囲気はいつもと変わらない。
それが私の戸惑いに拍車をかける。
なにがなんだかわからない混乱で、俯くしか出来ない私を藤堂先生は優しく手を引いて部屋に連れていった。