この階の廊下の並びに、コピーの取れる部屋があったはずだけど。

何故か少し嬉しそうに、頁をめくって指し示しながら、
「じゃ、最初から。冒頭部分ってのは大切だから」
何なんだ、一体。読み始める前に、ざっと黙読する。

「ちょっと。これって、モロに夫婦の会話ですよね」
「そう、そういう始まりかた」
「……なんだか、読むの、恥ずかしいっていうか……」
色気があり過ぎる。
「劇の台本だろう、ただの。協力してくれるんじゃないのか?読めよ。はい、読んで」
仕方がない。読み始める。こと演劇のこととなると、強引なのだ。逆らえない雰囲気になる。

放課後の、色彩の沈んだ部室に、二人の声が静かに響いている。
懐かしい。声は前より優しくなった。息苦しくなったのは、台詞の流れが淀みないからじゃない。

「仁科先輩、あの…」
「透って呼べよ。子供のころみたいに。透って呼べ。芳乃、どうして…」