「つぼみ」
ゆきくんが、とても愛おしそうに私の名前を呼ぶから、泣きそうになった。


「なぁに?ゆきくん」

泣かないよう、涙をこらえて返事をする。



「俺は夜が明けたら、消えるよ」



「っ…!」


「だから俺、今まで言おうと思って、言えなかったこというな」



「うん…」

私は、頷くのが精一杯だった。






「つぼみ」

「俺はつぼみに出会えて幸せだった」

「最初つぼみに声をかけた時、意味不明の事言っただろ?」


「奇跡って信じる?って」



「うん、」



「俺、最初は信じてなかった」


「でも、今は信じてる」



「うん…」
震える声を、抑えることしか出来なくて…



「だって今、こうやって奇跡が起きてるから」




「ふっ…う、うん」
自然と涙は頬を伝い



「俺、願ったんだ。」
「もう一度どだけ、つぼみに会いたいって」


「うん…っ、私も、願ってたよ…っ」

零れ落ちる涙を拭うこともせず




「うん、ありがとう」

「つぼみの母さんが言ってた通り、奇跡は、信じて望めば起きるんだな」



「っ…うん」


「俺、約束、果たせたかな?」



私は、何度も頷くことしか出来なくて…



「果た、せたよ…だって、ゆきくん、言ってたもん、遅くなってでも、地球一周してでも、会いに、来てくれるって」


「会いに、きて、くれたじゃん。」


「今、こうして、」



「っ…、うん…」

「そっか…良かった、俺、つぼみとの約束、守れたんだな」



「うん、守れたよっ」



「そっか…そっかぁ…」

私もゆきくんも、涙を流していた







「つぼみ」

「俺、まだ果たしてない約束が一個あった」


もうひとつ…?


「ほら、言っただろ?」


「あの時の秘密教えるって」



「あっ…」



ふっ…

ゆきくんが優しい顔で微笑む



「つぼみ」
「俺、つぼみのことが好きだ」
「出会った時から、ずっと好きだった」



えっ…






「本当に、これが最後」

「だから最後に一つだけ」


「約束、してくれないか?」





「うんっ」

私は笑顔で頷いた






「つぼみ、生きて」





「俺はもうこの世界にはいない、俺の事を忘れて欲しくはない、でも、俺のことは忘れて、前を向いて、生きて」



「そして、つぼみのお母さんと、俺の分も、幸せになって」



「それが最後の、俺とつぼみの」


「約束」








私は涙が止まらなかった


「うんっ、」













「今までも、これからも、愛してる」






ゆきくんの右目から一粒の涙が零れた



ゆきくんの身体は、透けていて、夜明けの光が海に反射し、キラキラと輝いていた。




ゆきくんの涙は、桜の花びらのように、静かに零れ落ちる





見つめ合う時間が、長くも、短くも感じる。




徐々に近づく二人の距離





ゆきくんの顔は吐息がかかるほど近くにあり、頬が紅潮していく




ゆきくんが「愛してる」

なんて言うもんだから、私も


「愛してる」


そう言った




可笑しくて二人で笑って、そして言った





もう次はない。

ゆきくんはもう生き返らない

それは二人とも分かっていた。



だから、こう言ったんだ








「じゃあね、ゆきくん」








「じゃあな、つぼみ」









二人はそっと唇を合わせた


そして、お互いの熱を確かめ合うように、深く、キスをした









そして最後にこう言った












「「またね。」」