「ん、これ」


確か…、千田さん…、だったと思う。

千田さんが俺に向けて

紙束を差し出してきた。


「え?」

「だから、さっき先生が言ってたやつ」

「え?」

「もしかして、聞いてなかったの?」


図星。

先生の話なんて、

まともに聞くはずがない。


ましてや、俺みたいなやつが。


「これ、今日中に仕上げないといけないやつ。

もし終わらなかったら放課後残ってだって」

「え、待って。なんで俺らが?」

「え、そこ?」


千田さんは、

ありえない、と言う顔をして、

俺の方を見た。


「あ、はい。ごめん」


はぁ、

と、呆れたように千田さんは

短くため息をつく。


「今日、私達日直だから」

「え」

「分かった?

ちゃんと仕事してよね」

「あ、はい」


千田さんはそう冷たく言い放つと、

自分の席へと戻った。


千田さんは、人が嫌い、って言うか、

人と関わるのがあまり好きじゃない、

という感じがする。

サバサバしていて、口数も少ない。


俺は結構そういうタイプが好きだったりする。



千田さんみたいなタイプが好き、

っていうのもあるかもしれないけど、

入学式の時から結構気になってるし。


って、彼女持ちでこんなこと、

言っちゃダメかもしんないけど。


千田さん、美人なんだよね…。


一重だけど、横に綺麗に伸びた切れ長の目。

筋の通った鼻に、薄い唇。

肌の色素は薄く、

瞳は吸い込まれそうになるような美しい黒。

それに、華奢で脚も長くて…。


そんなことを考えながら

チラッと千田さんの方を向くと、

偶然バチっと目があった。


千田さんは少し眉をひそめて

「何?」

と尋ねた。


「あ、ごめん。なんでもない」

「………」


千田さんは俺の言葉を聞くと、

再び読んでいた本へと

視線を落とした。


俺は、どうしてかは分からないけれど、

千田さんともっと仲良くなりたい、心を開いてほしい、

と思っていた。