「なぁ、桃果」

「ん?」


時は流れ、中3の夏。


家に帰っている途中で、

奏が私に話しかけてきた。


「桃果、俺な?」

「うん」

「やっぱ言うの恥ずい」

「は!? 言えよ!」

「えー、俺さ…」

「うん」


奏は、顔を赤くしながら、

はっきりと言った。


「俺、好きな人、できたかも」

「え…」



ショックでしかない。


嘘でしょ?


奏に、好きな人?


誰なんだろ。


きっと、

美人で優しい人なんだろうな…。


………。


……な、わけ、ないか。


私な、わけ、ないよね…。


やっぱり私は片想い。


この想いが伝わることなんて、ない。


小さい時からずっと一緒なのに…。


あの時、告白すればよかった…。


そんな焦りと後悔が私を襲い、


涙が出てきた。


とっさに涙を見られないように俯く。


「………、……か、ももか、桃果?」

「……」


『どうして?

どうして私じゃないの?

私のことを、好きでいてよ』


声にならない声を出して、

私は顔を上げる。


「!? おま、泣いてんのか!?

ごめん、俺なんか酷いことしたか?」



気づけよ、バカ。


あんたは、

人を好きになること、

それがどういうことか、

分かったんだろ?


じゃあ、その発言が、

どれだけ私を苦しめるのか、気づけよ。


「……」


私は何も言わず首を横に振った後、


「なんでもない」


と言った。


「そうか」

「うん」


素直なんだか、バカなんだか。


「なんでもない」って言葉を、

真に受けるんじゃないよ。


「……。ん」

「!?」

「泣いてる桃果より、

笑ってる桃果の方がいいぞ?」

「……、ありがと」

「ん。んじゃあ、帰るか」

「うん」


やっぱりこいつは、バカだ。

私があんたに

想いを寄せてるなんて知らずに、

そんなことするとか。


涙ぐらい、自分で拭けるよ。


………。


でも、心臓が飛び出そうなくらい

ドキドキしたし、恥ずかしかったけど、

嬉しかったよ?



私の目には、

涙を拭った君の指の温かさが

残っていた。