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「はぁ」
「大きい溜息だなー」
「う、わ!」
背後から突然、声を掛けられて持っていたタオルを落としそうになった。
部活の途中で顔を洗いに廊下に出たところ、開いていた窓から、「青空がキレイだなぁー」なんて眺めていたため、完全に油断していたのだ。
振り向くと、後藤先生がニヤニヤ笑っている。
「そろそろ、カウンセリングが必要かな」
「ええっと……」
大丈夫です、と言いかけて。
待てよ、と考え直す。
瑠偉くんは何もしなくていいと言ってくれたけど、やっぱりそれじゃダメな気がして。だけど、どうしたらいいのか分からなくて。
かといって相談できる相手は、私を甘やかす人ばかりで。
誰か、第三者の大人の意見がききたい。
「なるほどね」
そんなわけで、後藤先生に話した。
といっても「襲われた」というのは言えなくて、ある事件の被害者とだけ告げた。
「自分が勇気を出さなきゃいけないけど、怖くてできない?」
「はい……」
それもあるけど、やっぱりお母さんの気持ちを考えると、これ以上、踏み込んでいいのか迷ってしまう。
ここまで隠されてきたものを、無理に蒸し返す必要あるのかなって。
そんな私の話を、後藤先生は、ふんふんと聞きつつ、「1本いい?」と、白衣のポケットをまさぐった。
煙草かな? と思いきや、まさかのチュッパチャップスで、私もどうぞと差し出してくれた。



