どうしよう、このままダッシュで家まで走ろうか。
でも、家の場所がバレたら怖いし……。
「ちょっと、うちの娘に何ですか」
そのとき、近所の角から出て来たお母さんがこちらに駆け寄って来てくれた。
買いもの帰りなのだろうかスーパーの袋を下げている。
「あぁ、すみません。何度かお宅に電話をした者なんですけど、娘さんから直接お話を聞かせて欲しいと思いましてね」
「その件ならお断りしたはずです!」
「ほんの少しだけでいいんですよ」
「お引き取りください」
「また同じ事件が起きたんだ!」
「うちには関係ありません、警察呼びますよ」
お母さんの大きな声に何事かと近所の人が顔を覗かせる。
さすがにまずいと思ったのか、男性は柔和な笑顔を崩さぬまま、「分かりましたよ」と言いその場を去って行った。
「花菜、家に入るわよ」
世間体をいつも気にするお母さんが、人様の前でこんな風に声を荒げるなんて珍しい。
よっぽど私と合わせたくない人だったのか。
話をされたら困る相手だったのか。
2年前のあのことを、知られたくなかったのか――。
「お母さん、さっきの人って」
「なんでもないわ、もう忘れなさい」
「忘れなさいって、はいそうですかって納得するわけないじゃん。2年前の話って、私が事故にあったことだよね?」
「花菜」
「月刊スタークスの、山岡さん……あっ」
貰った名刺を見ていると、お母さんに取り上げられた。



