その日の練習は全くと言っていいほど、集中できなかった。
七海は部長になって、少し厳しくなった。
何度も同じミスを繰り返す私に、「1年に示しがつかないから今日はもう帰って」と冷たく言い放ち部室のカギを渡した。
しょうがない、私が悪い。
まだまだ陽の高く、家にまっすぐ帰るには早すぎる道をどうしよっかなぁーと考えながら歩く。こういうとき1人だと本当に何も浮かばない。
なので結局は、そのまま家のすぐ近くまで来てしまったところで、
「夕里 花菜さん?」
知らない男の人に声を掛けられた。
誰だろう? 歳は30代くらいで、眼鏡をかけている。
「ごめんね、急に。ちょっと話、いいかな」
「あの、どうして私の名前を……」
「怪しい者じゃないよ。こういうものなんだけど」
男性は胸ポケットから名刺を出した。
「……月刊スタークス?」
「ね、怪しくないでしょ。2年前の事件について君に聞きたいことがあって。どっか座れるところに行こうか」
2年前の事件って、例の?
どうして月刊誌の記者が?
男性はにこやかな笑顔を浮かべて、警戒しなくていいよ、とばかりに手の平を見せて近づいてくるけど、そんなの信用できるはずもなく。
叫ぶ余裕もないまま、後ずさる。



