「花菜?」

「せ、ん、ぱい……」

「どうしたの、そんなに驚いて。何かあった? 大丈夫?」

「あ、あぁ、いえ」


なんだ、先輩か。

まだ心臓がバクバクしてる。

先輩はさっきの場所で待ってると言ったけど、やっぱり1人にしちゃいけないと私の後を追ってきていたらしい。

そんな説明を受けている間も、胸の動悸が治まらなくて、浅い呼吸を繰り返す私に、先輩は、こっちに行こうと人気のない場所まで連れて行ってくれた。


「落ち着いた?」

「はい、すみません」

「謝ることないけどさ、聞いてもいい? 花菜がどうしてそこまで男を怖がるのか。彼氏として知っていたい。それで、力になりたい」

「先輩……」


そっと手を握られた。

大丈夫だ、怖くない。

さっきの不良っぽい人たちは何をするのもダメだけど、物腰の柔らかい人や、私の気持ちを汲んでくれる人の傍にいるのは、大丈夫。

先輩とは触れるのも、平気になってきた。

勇気を出して握り返してみると、ん? と優しい表情。

石段に腰掛けて、足に付けたお揃いのミサンガを寄せる。

大丈夫だよね。

”理解してくれる人が必ずいる”って、後藤先生が言ってたよね。


「実は、2年前に……」


すべてのことを話すのは、勇気がいった。

七海には前に少し話したけど、それでも全部は言ってない。

知らない男の人に追いかけられて怪我をしたこと、その相手はさっきみたいな不良だったこと。

親が勝手に示談にしたこと。



先輩はその1つ1つを真剣な表情で聞いてくれて、時には私の頭を撫でながら、背中をさすりながら、大丈夫大丈夫と励ましながら。

そして、


「そう覚えてるんだね」


と、最後に呟いた。