ぽつり、と。
呟いた瞬間、しまったと思った。
瑠偉くんの顔が徐々に曇っていく。
「ごめん、余計なことを言った」
「別に」
短い溜息が漏れる。
瑠偉くんにとってお父さんのことは触れてはいけないタブーのようなもので、私はそれを知っているのに、つい口にしちゃうなんて。
申し訳なさと情けない気持ちでいっぱいになっていると、瑠偉くんは私が持っていた雑誌を手に取りゴミ箱に捨てた。
「え、あの」
「カメラはもう辞めたから」
「辞めた? 嘘、だってあんなに好きだったのに」
「もう昔の話だ」
そんな……そんな、辞めたなんて。
心の中で復唱して、勝手にぽっかり穴が開いた気持ちになる。
お父さんがプロのカメラマンだったというのもあり、物心ついた頃からカメラに触っていた瑠偉くん。
7歳の誕生日に買って貰ったというミラーレス一眼をとっても大事にしていて、どこに行くときも持っていた瑠偉くん。
何より写真を撮るのが大好きだった瑠偉くん。
そしてそんな彼に写真を撮って貰うのが大好きだった私。
数えきれないほどたくさんある、笑顔の私。
そうか、あれはもう。
「うん。昔の話だもんね」
強張った声は、自分でも変だと思うほど震えていた。
Tシャツの裾をギュッと掴む。
「おい……?」
「なんか久しぶりにこの家に来たら懐かしくなっちゃって、昔に戻ったような気分になっちゃったの。でも、そうだよね。今は昔と違うもんね」
「お前、何を言って、」
「ごめんね、瑠偉くんは私とこうして話すのも嫌だよね」



