「黒沢さんは、中学から聖ウィステリア女子?」
「うん、親の勧めでね。受験したなら知ってると思うけど、全寮制なのね。13歳から親元を離れて朝から晩までキリストの教えがどうとかこうとか、頭がおかしくなりそうだった」
「そうなんだ……」
って、落ちた人間に愚痴を言わなくても。
どんなに今の学校が自由で良いと言われても、聖ウィステリア女子への憧れは薄れない。黒沢さんもそれに気が付いたのか慌てて、ごめんね、と小さな声で言った。
悪い子じゃないんだよね、きっと。
「今は実家に?」
「ううん、親戚のところ」
「え、そうなんだ」
「ちょっと事情があって。ね、それより今日は葉山先輩、一緒じゃないの?」
「先輩は受験生だから。夏休みは模試がいっぱいあって会えないんだ」
そう残念ね、と黒沢さんが言う。
でも本当のところ、ちょっぴりホッとしている私がいる。
夏休みの間は部活に専念できるし、七海とも一緒に居られる。
それに合宿の時に聞いてしまった例の瀬戸高の1年との関係や、元カノのこととか。余計なことを考えなくて済む。
先輩のことは好きだけど、まだ戸惑う気持ちの方が大きくて時々、どうしていいか分からなくなる。
七海に言わせると、分からないなら先輩に任せればいい、ってことらしいけど、恋愛って本当に難しい。
だって、先輩は。
と、そこまで考えて、ふと。
「そういや、黒沢さんってどうして葉山先輩を知っているの?」
「どうしてって、この学校じゃ有名人なんでしょ」



