「先輩っ」
「じっとして、少しだけこのまま」
優しい声とは裏腹に、先輩の力は強い。
背中を圧迫されながら、密着して熱いはずなのに、体温はどんどん冷えていくような感覚がする。
『もうやったの?』
まこちゃんの声が頭の中で蘇った。
付き合っているなら抱き合うことなんて当たり前で、頬や、髪や、体に触れられることも自然なことで、その先も、そのまた先も――。
「花菜、好きだよ」
ドクンッ、と心臓が跳ねた。
抱きしめる力を緩めた先輩は、私の肩に手を置いてゆっくり顔を近づけてくる。
不意に周りの音が消えた。
そしてスローモーションで再生されるかのように先輩の顔がさらに近づき、鼻と鼻が触れてしまいそうな距離まで来たとき。
伏せがちの瞳に、そこはかとない恐怖を感じた。
「―――いやっ!」
叫んだ瞬間、私は地面に座り込んでいた。
両手で覆った唇は、わなわな震えている。私、わたし、怖い、どうしよう。
震えはだんだん大きくなり、唇だけじゃなく指も、肩も、体全体が別のものになってしまったかのように言うことを聞かない。
そうだ、深呼吸しなくては……。
吸って、吐いて、吸って、吐いて、と呼吸を整えていた私の腕を先輩が掴み、ぐいっと上に引っ張り上げ再び立たされた。
目が合った先輩は、ニコッと笑う。
「それ何?」
「ッ、せん、ぱ……」
「聞こえなかったか? それは何だと聞いているんだよ」



