「ナイッシュー! 花菜、もう1本!」

「ごめん、パス」

「おっけ、任せて」


姿勢のいいフォームから放たれるボールの行方を、祈る思いで見つめる。

吸い込まれるようにゴールネットを揺らした瞬間、駆け寄ってきたチームメイトとハイタッチをした。


「やった、七海!」

「うん。けど、冷や冷やしたぁ」

「これでベスト4だよ!」


興奮が収まらず七海の肩を叩くと、「地区の中でだけどね」と彼女は冷静に笑う。

キャプテンが板についてきたなぁ。

そんなことを思いながら体育館のドアを開けると、風で舞い込んできた桜の花びらが頭の上にふわりと乗った。


「もう、桜も終わりかな」

「咲いちゃったら、あっと言う間に散るよね」

「そうだね」


季節の移り変わりは、瞬きするように早い。

桜の花びらを手の平に乗せた私は、それを外に向けて翳しながら、この体育館でプレーをする1人の先輩を思い出した。

葉山先輩。

彼は去年の終わりに学校を辞めた。

風の噂で、先輩は家を出て働いていると聞く。

たぶん、もう会うことはないだろうけど、元気でいてくれたらいいな。


「さあ、シュート練習100本しようか」

「えっ」

「ブランクあるからね、花菜は。去年より下手くそになってるよ」

「せめて50本にして!」

「文句言うなら150本にするけど?」

「鬼ー!」