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「まぁ、要するにさぁ、びびったんだよ」
昼下がりのファストフード店は、子連れ客で溢れている。
ふたつ前の席に座った5歳くらいの男の子に変顔をして笑わせていた中津くんが、ひょいっとポテトを口に咥え椅子の上でふんぞり返った。
伸ばした腕が隣に座る黒沢さんの肩に掛かり、彼女はその腕を容赦なく叩く。
「捕まるくらいなら、自首した方がいいって言うもんね」
「そう、それ」
「調子いいな、あんたも捕まればよかったんじゃないの」
「残念でしたー。俺は関わってねぇーもん」
警察に出頭した葉山先輩は、2年前の事件についてすべて話した。
それによって地元グループのメンバーもそれぞれ警察から呼び出しを受け、任意の取り調べを受けることになった。
「よかったね、黒沢さんのお兄さん」
「うん、ありがとう」
黒沢さんのお兄さんは、容疑を取り消され、警察から謝罪を受けた。
だからといって彼が失った日常が取り戻されるわけではなく、退学になった学校に復帰できるものでもない。
あの時、私がもっと事件と向き合おうとすれば……。
その思いが消えることはない。
「もー。そんな顔しないでよ、これからいい方向に向いていくんだから」
「うん、そうだね」
「夕里さんは、どう? 心療内科に通い始めたんでしょ」
「まだ通い始めたばっかりだけど、楽しいよ」



