「無理なことを言うな」
オルキスは自分の唇を押さえるほっそりとした白い手を掴み取ると、そのままリリアを引き寄せて、つぼみのように可愛らしい唇を少し強引に奪う。
甘ったるい吐息が絡み合い始めた時、遠くで「オルキスさまぁーー!」と情けない叫び声が響き渡った。
振り返れば、馬を走らせやってくるアレフとセドマの姿があった。
「どうせ遅いなら、あと少し遅くても良かったのに」
オルキスは不満たっぷりにぼやいて、リリアの身体を抱き寄せる。
「しっかり捕まってろよ」
そう言って、オルキスが片手でつかんだ手綱を振るう。
二人から逃げるように、白馬は再び駆けだしたのだった。
+ + +
並び建つ風車の傍らの道を駆け抜けていくと、ポツリポツリと民家が現れる。
こぢんまりとした集落から林へと入り、緩やかな坂をのぼり終えた瞬間、視界いっぱいに広がった光景にリリアは感嘆の声を上げた。
坂を下った先に大きな川が流れていて、その対岸に数えきれないほどの建物がひしめき合っている。
やはり目を引くのは、高くそびえ立つ三角屋根の時計塔と、町並みから一段高い場所に悠然と構えているジャンベル城だった。