半ば自分の胸元へと顔を押し付けるように、オルキスは再びリリアを引き寄せる。
「リリアは王子が嫌いか」
「嫌いだなんて、そんな……ただ……興味を持てないって言うか」
「嫌われるよりひどいな」
しかめっ面のオルキスの胸元に両手を付いてリリアは体勢を元に戻すと、にこりと笑いかけた。
「でもそうよね。王子様に会いたいと言ったら、父も私を宿屋に置き去りになんかしないで、きっと一緒にジャンベル城へと連れて行ってくれるはず」
リリアの微笑みは、徐々にはにかんだものへと変化し、そして恥ずかしそうに顔を伏せた。
「お城の門を通り抜けることさえできれば、オルキスに会えるかもしれないもの」
姿を見かけるだけでも、オルキスの普段の様子を知ることが出来るのだ。リリアにとってそれは王子様に会うよりもずっと貴重な瞬間となる。
「とっても楽しみ」
「……リリア」
甘い囁きと共に近づいてきたオルキスの口元を、リリアは両手で慌てて押さえてみせた。
「なんの真似だ」
「それはこっちの台詞です。次はないって言ったでしょ」
咎めるように頬を膨らませたリリアに対し、オルキスは楽しげに笑う。