オルキスの肩もとを軽く引っ張り再び申し出ると、それを見ていた連れの男が、なぜか慌て出す。


「娘! いくらなんでも、オルキス様にそのような口の……」


しかしその言葉はリリアには届かなかった。オルキスが大きな咳払いを繰り返し、男の言葉を遮り続けたからだ。

合わせてオルキスに冷たく睨みつけられてしまい、男も何かを察したのか、ばつの悪い顔でそっと口を閉じた。


「どうかした?」

「いや何も。ほら、降ろしてやる。俺に掴まれ」


オルキスは軽く首を横に振りながら手綱を手放すと、馬上で状況がつかめずにいるリリアに向かって両手を伸ばした。

掴まれと言われ、リリアはためらいながらオルキスに手を伸ばす。

その手がオルキスの肩に乗せられると、そのままオルキスはリリアの腰を掴み、軽々と馬から降ろしてみせた。


「……あ、ありがとう」


無事に両足が地面に着き、そろりとオルキスの肩からリリアは手を引いたのだが、オルキスはリリアから手を離さなかった。

左手でリリアの腰を引き寄せると、雨でわずかに濡れた前髪から頬へと指先でなぞるように触れ、じっとリリアを見つめたままオルキスは笑みを浮かべる。


「どういたしまして」