顔を見合わせ互いに苦笑いを浮かべたあと、リリアは言葉を続ける。


「王子様とか運命の乙女とか、そんなことはどうでも良いの。私、一度でいいから、モルセンヌの街をこの目で見てみたい。それだけなのに……」


リリアの気持ちに呼応するように、男の手の中から黄金色の髪がするりと落ちていった。

代わりに、天からポツリと雨粒が落ちてきたことを感じ取り、リリアは手の平を上にかざし様子をうかがう。


「……名前は?」

「リリア。リリア・エルウッド」

「エルウッド?」


自分の名を驚いた声で復唱され、リリアは見上げていた空から視線を落とし、男にぎこちなく頷いてみせた。


「そうだけど……なにか?」


胸の内を問いかけられても男は自嘲めいた笑みを浮かべるだけに留め、改めるようにリリアと向き合った。


「リリア」


凛とした声で呼びかけられ、リリアの鼓動がドキリと高鳴った。

くすぐったいような、恥ずかしいような、何とも言えない気持ちになり心は落ち着かないというのに、自分を真っ直ぐに見つめるその瞳からリリアは目をそらすことができなかった。


「見たいと思うのなら、強く望め。そうすればきっと……今に道が開ける」