「……あの……」
じっと髪の毛先を見つめている男に戸惑いつつリリアが声を掛けると、すぐに視線が上昇した。
「落ち込むな。お前なら入れなくもない」
「え?」
「俺と一緒なら、入れる」
その言葉にリリアは息をのむ。
確かに、男と一緒なら塔の内部に入ることもできるかもしれない。
誰も簡単に見ることができない景色を、目にすることができるかもしれない。
しかし湧き上がってきた期待と希望を、リリアは必死に心の奥底へと押し返した。
「……無理よ。今の私ではモルセンヌに行けないもの」
その望みはモルセンヌで叶うのだ。舞台に立つことすら出来ないリリアには手の届かない話だ。
「無理? なぜ?」
驚きを隠しきれない様子の男の手にある自分の毛先を見つめながら、リリアはため息をつく。
「理由はそれよ。モルセンヌに住んでいるなら、一度は耳にしたことがあるでしょ? 運命の乙女の話」
「……それに問題が?」
「大ありよ。私の髪と目の色がそれに当てはまるみたいなんだけど……そのことで不機嫌な父に腹が立って、私家を飛び出してきたところだったの」
「……で、木の上か」


