まるでリリアの言葉を否定するかのように、男は薄く笑みを浮かべた。

誰かに見つかったところで、自分は怒られない。

そんな響きを伴う男の小さな笑い声に、やっぱりモルセンヌでも顔が良い方がなにかと得なのねと、リリアはひとりふて腐れる。


「怒るなよ」


少しだけ膨らませていた頬を男につんっと突つかれ、リリアの頬が赤くなっていく。


「実際のところは、立ち入り禁止にしている手前、人目につかないようこっそり中に入っているだけで、ちゃんと塔の管理者から許可を得ている」

「そうなんだ。つまりは、あなただから許されているってことね」


続きを聞けば、優遇されているのは決して顔が良いからだけではないことを知る。

それなら他にどんな理由があるのだろうかと、リリアは改めて男へと視線を向けた。

身なりの良さと漂う気品から、男は身分の高い……例えば貴族の生まれかもしれないと想像する。

本来なら、ただの田舎者である自分が気軽に話せる相手ではないのかもとまで想像を膨らませてしまい、徐々に居心地の悪さまで感じてしまう。

気まずさで肩を落としたリリアの髪を、男の手がすくい上げた。