怒涛の質問に、今度は男の方が後ずさる番となる。
しかし、横をのんびり歩いている白馬が壁となり、あっけなく退路は断たれてしまう。
「モルセンヌに興味があるのか?」
男は苦笑いを浮かべながら、こくこくと頷き返してくるリリアの肩をそっと押し返した。
「城を見て圧倒されたことは一度もないが、時計塔は好きな場所だ。時々、日が落ちる頃、こっそり塔に忍び込んで、夕暮れに染まる街を見下ろす時は至福に感じる」
「それ素敵!」
リリアは男の横を楽しげな足取りで進みながら、「夕暮れ時の時計塔かぁ」とうっとりとした顔でつぶやいた。
森を出て「こっちよ」と誘導しながら、リリアは男と共に村の中心部へと繋がる小道を歩いていく。
「村を訪れた旅人からモルセンヌの時計塔の話はいろいろ聞いていたけど、みんな外観の事ばかりで、あなたのようなことを言う人は初めてだわ」
「だろうな。塔の内部は立ち入り禁止だ」
それを聞き、リリアは目を大きくさせ、男の顔をじっと見てしまう。
「……あなた、立ち入り禁止の場所にどうやって?」
「だから、こっそりと」
「それって忍び込んでるってこと? 誰かに見つかりでもしたら怒られるわよ」
「怒られる?……どうかな」


