見惚れてしまった上に、気恥ずかしさが心を支配し、返す言葉が何一つ浮かんでこなかった。
村の男相手に抱いたことのない感情ばかりが溢れ出てくることに困惑しつつ、リリアは再び男と距離を取る。
これ以上心を乱されないために、近付き過ぎない方が良いだろうという判断を下したためだ。
綺麗な顔に油断してしまいそうになるけれど、この男にはリリアの唇を奪った前科もあり、油断大敵である。
気持ちを引き締めてから、リリアは男に問いかけた。
「……あなたはどこからいらしたの?」
男は答えようと横を向き、面食らう。
さきほどまですぐ隣に立っていたリリアが、警戒心丸出しの顔で自分と距離を置いて歩いていることに気付いたためだ。
呆れたように肩を竦めた後、男は互いの間に出来た空間を大きな一歩で埋める。
「モルセンヌ」
距離を詰められ思わず下がりかけたリリアの足がぴたりと止まった。
「モルセンヌ!」
さっきまでの態度は嘘のように、リリアは好奇心いっぱいに瞳を輝かせ、嬉しそうに男に迫っていく。
「モルセンヌに住んでいらっしゃるの? ねぇ、やっぱり素敵な街なんでしょう? ジャンベル城や時計台は圧倒されるほど美しいって聞いたけど、あなたもそう思う? モルセンヌで一番好きな場所はどこ?」


