次期国王はウブな花嫁を底なしに愛したい



「……突然、悪かった」


顔を向かい合わせ、たどたどしく発せられた謝罪に、リリアはすっかり現実に引き戻されてしまった。

今更ながら、見知らぬ男と口づけなど、なんてことをしてしまったのかと一気に顔が熱くなっていく。

身体の中で荒れ狂う感情を誤魔化すように、リリアは手荒に頬を伝う涙を拭ったあと、遅れて湧き上がってきた反発心そのままに両手で男の胸をつく。


「いっ、いきなり何するんですか!」


眉間にしわを寄せて、無意識に手加減しつつも叩く手を止めずにいると、ふっと男が口元に笑みを浮かべた。

俊敏にリリアの手を掴み取り、そのままぐっと引き寄せる。


「いまさらそんな顔しても遅い。俺との口付け、良かったくせに」


至近距離で、しかも甘さを含んだ声音で意地悪く囁きかけられ、リリアの羞恥心が勢いよく燃え上がる。

パチンと小気味よい音を響かせてから、リリアは四つん這いで男から離れた。


「……痛い」


男はリリアに叩かれた頬にそっと触れながら、納得のいかない声音でつぶやいた。

二歩分ほど距離をあけたあと、リリアもぺたりと座り込み、言葉を返す。


「そりゃあ、思い切り叩きましたから!」