地面に打ち付けられる衝撃に歯をくいしばり備えた……が、リリアが落下したのは温もりを感じる場所だった。
耳元でうめき声が聞こえそろり顔を上げると、苦痛に満ちた男の顔がリリアの目の前にあった。
と同時に、手を置いているところが男の胸の上だということにも気がつき、なぜこんな状態になっているのかとリリアは軽く混乱する。
しかし再び発せられた苦しげな声を聞き、痛みがないのは彼が身体全部で自分を受け止めてくれたからだという考えにやっと至った。
「すみません……っ!」
謝罪と共にそこからおりようとしたけれど、自分の腰に乗せられた男の手の熱を感じ取り、リリアは身体を強張らせた。
男は表情を和らげると、もう片方の手を伸ばしてリリアの頬に触れる。
ふたりは動かずに、じっと互いの瞳を見つめ続けた。
男の黒みを帯びた赤い瞳を改めて綺麗だと感じ見惚れると、リリアの心の中に小さな熱が生まれ、徐々に鼓動が速くなっていく。
妖精ではないとしたら、なんて麗しい男性なんだろう。
頬に触れた男の手は黄金色の髪をなぞるようにリリアの後頭部へゆっくり伸ばされ、リリアも引き寄せる力に抗うこともなく身体を前に傾けていく。


