男性が腰元に携えた剣へと手をかけているのが外套の下にちらりと見えてしまい、リリアは息を詰めた。
「……お前、そんなところで何をしている」
澄んだ声で問われ、リリアは怯んでしまう。
十七にもなる娘が木登りをしている光景は、すでに男の目には妙な光景として映っているだろう。
正直に「遠くに生えている木を眺めていた」と打ち明けようものなら余計怪しく思われ、剣を抜かれてしまう可能性もある。
どう返せばいいか頭を悩ませながら再び視線を落とし、リリアは動きを止める。
男にじっと見つめられ、気恥ずかしさを覚えると同時に、鼓動が高鳴り始めたのだ。
しかし、男から目を逸らすことも出来なかった。瞳の強い輝きに心が掴まれてしまったような、そんな気持ちにさせられていく。
白馬が水面から鼻先を上げ小さく嘶いた瞬間、強い風が吹き抜けていった。
咄嗟に身構えた男のローブの裾が翻り、白馬のたてがみと尻尾の毛が揺れ、そして木々は大きく揺さぶられ、幹に軽く手を添えていただけだったリリアの手がするりと滑った。
「……きゃっ!」
バランスを崩したリリアの身体はゆっくりと傾いていく。
体勢を立て直すことは叶わず、そのまま木の根元に向かって落ちていく。


