友達と喧嘩をして悲しくてたまらなかったり、父に自分の思いが伝わらなくて歯がゆさを感じたり、母が恋して仕方がなくなったそんな時、ついリリアは妖精の森にある母の墓地へと足を運んでしまう。

しかし今日は父が仕事で家を出る日だ。

いくら気まずくても父の見送りだけは絶対にしておきたいため、そうすると、墓地に行って帰ってくるほど時間に余裕があるのかと不安になってくる。

その上空模様も怪しい。途中で雨に降られてしまうこともあるかもしれない。

いくつもの不安が重なる時は無理をせず、リリアはこの木に登ることにしている。

ある程度の高さまでよじ登ると、母の眠る墓地の傍にすらりと立つ木を見ることができ、この場所からでもあの木を通じて自分の祈りが母に届くような気持ちになるのだ。

リリアは胸元にあてた手を、力いっぱい握りしめた。

久しぶりに母の名を聞いてしまったからか、寂しさや恋しさで心がひどく乱れてしまっている。

母のことは何も知らない。それで良いと思っていたはずなのに、リリアは今、母のことを知りたいという強い欲求に、飲み込まれそうになっていた。

どんな女性だったかだけではない。