小道をとぼとぼ進みながら、リリアは風で舞い上がる自分の髪をそっと押さえた。

暗く重い雲がさきほどより幾分近づいてきていることに気付きはしたけれど、飛び出してきてしまった手前、家に戻る気持ちにはなれなかった。

どこに行こうか。そう頭で考えるよりも先に、リリアの足はとある場所へと向かって進んでいく。

ちょうど店から出てきたパン屋の奥さんや畑帰りだろう陽気なおじいさんと軽く言葉を交わしながらも、足を止めることはせずに市場を通り抜けた。

村の外れまできて、リリアは一旦立ち止まり背後を見回す。

誰もいないことを確認すると、そのまま目の前に広がる森の中へと足を踏み入れた。

この場所は妖精の森と呼ばれ、村の民は特別な時にしか入ろうとしない。

子供の頃より、妖精に連れて行かれてしまうから森に入ってはいけないと大人たちに繰り返し聞かされるため、森に畏れを抱くようになるためだ。

しかしリリアは違う。

ゆるやかに流れゆく小川、生い茂る木々、のんびりと暮らすたくさんの動物たち、なにより母が眠るこの豊かな森になら、どこかに妖精がいたとしてもおかしくないと興味を持ってしまったのだ。