アレフが騎士団内で起きたセドマの武勇伝を面白おかしく話すため、リリアが笑い疲れて小さく息を吐くと、それに気付いたオルキスは持っていたティーカップをソーサーへと戻した。


「リリア、大丈夫か?」

「平気。大丈夫」


微笑みながらゆるりと首を横に振るリリアに、アレフは気まずそうに両肩を竦めた。


「お元気そうなのでうっかりしていました。リリア様、体調はいかがですか?」

「もうすっかり元気です……でもまだまだ元通りになるのに時間がかかりそうな所もあるけれど」


言いながら、リリアはきっちりと編み込まれた自分の髪の毛に触れた。

王妃が企てたあの出来事から、もうすぐ一ヶ月。

体調と瞳の色はほぼ戻りつつあるのだが、髪の毛だけ黒がまだ強く残っている。

とは言え、耳の後ろなどを始め場所によっては黄金色と混ざり合い汚れているようにも見えてしまい、リリアはそれらを目立たせないために髪を結い上げてもらっているのだ。

リリアが癖のように髪の毛先を触っていると、オルキスが「リリア」と優しく呼びかけた。


「もうしばらくは俺とおそろいだな」


きょとんとしたリリアと目と目が合わせて、オルキスは自分の前髪を指先でつまんでみせた。