「母さん! やっぱり俺じゃないよ。兄さんこそ王にふさわしい。俺はそう思うんだ。それに、兄さんは本当に彼女を大切に思ってる。彼女を失ったらきっと、父上のように思い出の中で生きていくことになってしまう。俺はそんな兄さんを見たくない!」

「黙りなさい!」


鋭い金切り声での王妃の叫びに、セルジェルは身体を竦め、息をのむ。


「あなたは余計なことは言わず、ただ黙ってそこにいればいい。分かったわね?」


凄みのある顔で睨みつけられ、セルジェルは完全に言葉を失った。

気力を失ったことを感じ取ったオーブリーが手を離すと、セルジェルはその場に足から崩れ落ちていく。

そしてオーブリーはリリアへと身体の向きを変えた。

リリアもそれを霞む視界と気配で察し、オーブリーに向かって睨みつける。


「やめろ。まるでソラナに睨まれているようで、気分が悪い」


そんな風に言われると余計に反発心が膨らみ、リリアはオーブリーから目を逸らすことをしなかった。

その行動がオーブリーの苛立ちと混乱を一気に増幅させていく。


「やめろ、ソラナ! 俺を見るな!」


オーブリーは荒々しい足音を立てながらリリアへと歩みより、乱暴にリリアの腕を掴みあげた。