再びリリアの傍らでガタリと大きな物音がした。

誰かがオーブリーに抑えつけられている。リリアにはその姿がオルキスのように見えて心に希望の灯がともったが、続けて聞こえた声でそうではないことを知る。


「ただの睡眠薬だって言ってたじゃないか! リリアさんに早く解毒薬を! あるんだろ!? 今すぐ飲ませないと!」


オルキスではなくセルジェルだったことに希望の灯はあっけなく消え失せ、そしてセルジェルのあまりの必死な姿に、リリアは自分の状態がひどいということを察し、絶望感さえ抱いてしまう。


「やあね、セルジェル。そんなもの作らせてないわよ。彼女はこのまま苦しみながら息絶えればいい。そして母親の時と違って今度はしっかりと、私たちの前に屍を晒してちょうだいね」


恐ろしい言葉だけでなく、何処までも本気だと思わせる瞳で王妃に見降ろされ、リリアは気持ちが萎縮していった。

階段を下りて、真っ直ぐ歩み寄ってきた近衛兵に耳打ちされ、王妃がほくそ笑む。


「準備が整ったみたいね。さぁ。私たちも宴の席へと参りましょう。すべてを覆し、セルジェルを王にするために」


オーブリーによって後ろから両腕を捉えられ項垂れていたセルジェルが、勢いよく顔を上げる。