セドマはオルキスがいる部屋の方をちらりと見てから、「それじゃあ、またあとで」とだけ言葉を残し、団員と共に執務室を出て行く。
リリアは再び部屋にひとりとなったが、すぐにダンスの練習を再開する気持ちにはなれなかった。
オルキスはセドマからどこまで聞いているのだろうか。
話をしたくてたまらないのだが、隣りの部屋からは相変わらずボソボソと喋る声が響いてくるだけで、話が終わる気配はない。
気持ちが落ち着かないまま窓の向こうへと目を向けると、ちょうど庭園へ進んでいく黒い人影が見えた。
暗がりの中で外套をまとっているため、はっきりとは分からないが、リリアは身体の大きさからそれがボンダナだと予想する。
その人影がベンチに腰掛けたのを見て、リリアの気持ちはさらに落ち着かなくなっていく。
会が始まるまで、まだ少し時間に余裕がある。ちょっとくらいなら話ができるのではと考えてしまったのだ。
「……あの……リリア様?」
突然声をかけられたことまた驚き、大きく振り返ったリリアを見て、リリアの後ろにいた侍女も驚いた顔をする。


