いつの間にか、オルキスとセドマがそんな話をしていたことに驚く一方、オルキスの自分を気遣うような発言が嬉しくて、リリアの口元がほころんでいく。


「リリア、聞いてくれ」


しかし続けられたセドマの硬い声音に、瞬時に表情を強張らせた。


「語り継がれている話は事実ではない」

「事実、じゃない?」

「あぁ。精神的に追いつめられ飛び降りようとしたのは事実だが、俺が助けた。そのままソラナはモルセンヌを出て、その数年後には俺も」

「それならどうして……」


そこで扉を叩く音が室内に響き、ふたりは話を中断させる。

「失礼いたします!」と声高らかに、しかし恐る恐ると言った足取りで執務室へと入ってきた若い騎士団員に、セドマは「オルキス様に急ぎの用か?」と尋ねた。

しかしそうではなかったようで、「いえ。団長がセドマ様をお探しです」とホッとした表情で要件を告げる。

わずかに逡巡したのち、セドマは「今行く」と返事をしリリアへ顔を向けた。


「ボンダナもお前といろいろ話したがっていた。近いうちにその機会に恵まれるだろう。だから今は、オルキス様の顔に泥を塗らぬよう、ステップを覚えることだけに集中しろ」