「……おっ、お父さん! 驚かせないでよ! いつからそこにいたの!?」


入口近くの壁に背中をもたれさせて、いつの間にかセドマが立っていた。

この場には自分しかいないと思いこんでいたためもちろん驚いたのだが、それ以上に、苦笑いでセドマが自分を見ていることにほんの少し腹立たしくなり、リリアはしかめっ面をする。


「少し前から。もちろん入室時にはちゃんと声をかけたぞ」


セドマはリリアへと歩み寄りながらちらりと応接室の方へ目を向けた。


「オルキス様は?」

「えぇ。となりでお話しされているわ」


確認するかのようなセドマの問いかけに、リリアは頷いてみせた。

執務室に戻ってからしばらくの間、オルキスがダンスの練習に付き合ってくれていたのだが、客人が到着すると共にそれもおしまいとなったのだ。

顔を見合わせると思い出してしまったのか、セドマはおもむろにリリアから視線を逸らし、ふっと笑みを浮かべた。


「笑わないでよ!」

「悪い……しかし、ひどいな。今夜はオルキス様と踊るのは止めておいた方が良いかもしれないぞ。リリアは食事をひたすら食べていろ。うまそうに食べている姿の方が様になっている」

「なにそれ!」