リリアは杖をつきながら室内に入ってきた老人の姿を見て慌てて立ちあがった。


「アレグロ村長!」


少し乱雑になっていた椅子を整えたりと、アレグロが部屋の中を進みやすいようにリリアは立ちまわる。


「お呼びくだされば、私の方から行きましたのに」

「いやいや。セドマに用があってな。逃げられる前に今一度話をしておかねばと」

「逃げるだなんて……いや、ある意味そうかもしれません。出来れば、雨雲がやってくる前に村を発ちたい」


セドマは希望を口にしながら窓の向こう側へと、数秒目を向ける。


「ゆえに時間があまりない。申し訳ないが話は帰って来てからでもよろしいか?」


突き放すようにも聞こえるセドマの言い方に、アレグロは薄く苦笑いを浮かべた。

言葉通り、窓から見える西の空には暗い雲が広がっている。しかしその厚みのある黒雲からここまではまだ少し距離があり、急を要する状態とはとても思えない。


「遠くの天気よりも、私の話を優先してもらいたい。今せねばならぬ話だからな。なに、時間はとらせんよ」


しかしセドマは頑なだ。もくもくと準備の手を動かし、これ以上の会話を拒否するようにアレグロに対して背中を向け続けている。