仕事で家を離れる父を、気まずい気持ちのまま見送りたくはない。だから今日もリリアは自分の思いをぐっと飲み込み、笑みを浮かべる。


「お父さん! 準備は出来た? 何か手伝うことはある?」


明るく笑顔で自分の傍らに膝をついたリリアを見て、セドマはほんの一瞬これまでの態度を反省するような表情を浮かべ、そしてふうっと息を吐く。


「いや。大丈夫だ。今回は難しい仕事ではないから、すぐに終わらせて戻ってくる。もしかしたら二週間もかからないかもしれないな」


セドマは大きな体を丸めてリリアの頭を軽く撫でた後、その手同様大小さまざまな傷跡の残った顔で穏やかにほほ笑んで見せた。


「いつも独りにさせてすまないな」

「私は平気。気をつけて行って来てね」


セドマは表情が乏しく、立派な体躯や古傷の多い見た目から怖い人に思われがちだけれども、リリアにとってはとても優しい父である。

実際、困らせて無口にさせてしまうことは多々あっても、厳しく叱られたことは一度もない。

親子の平穏な時間を取り戻し始めたとき、ドンドンと力の加減を知らないような音で扉が強く叩かれた。続けて「入るぞ」と、声かけと共に勢いよく扉が開かれる。