王の言葉でさらに歓声が大きくなっていく中、呆然と固まっているリリアの頬へとオルキスが軽く口づけた。
唇の柔らかさにリリアはすぐに反応し、顔を赤く染めながら勢いよく顔を上げる。
オルキスと目を合わせたもののなかなか気持ちが追い付いてこなかったためか、リリアは困り顔から苦笑いへと表情を変化させ、そして最後に反抗的な眼差しを向ける。
一連の反応が面白かったのか噴き出し笑いをしたオルキスに、リリアはさらに顔を真っ赤にさせながら、ふくれっ面をしてみせた。
ふたりが仲良くじゃれ合っている光景に、ついつい周囲も注目してしまう。
なにより普段素っ気ないオルキスがリリア相手だとこんなにも楽しそうに笑うことに驚きが広がり、やがてその驚きはふたりの幸せに満ちた笑顔によって、幸福感へとすり替えられていった。
+ + +
そんな中、庭園を包み込む温かな空気の中から、一人の女性が離脱する。
リリアと同じ色をした瞳に悔しさを滲ませたユリエルは、拳をぎゅっと握りしめたまま、ふたりからどんどん遠ざかっていく。
そしてもう一人、目の前で繰り広げられている光景に、小さく嘲笑った女性がいる。
ゆったりと扇で仰ぎながら、エルシリア王妃は「馬鹿馬鹿しい」と吐き捨てるように呟いた。
「……王妃様」
すぐ後ろから発せられた掠れ声に、退屈そうな顔から表情をぱっと明るくさせ、王妃は振り返る。
「心待ちにしていたぞ」
片膝を立てた格好で畏まっていたオーブリーは、ゆるりと顔を上げると、ぎらりと瞳を怪しく輝かせ笑みを浮かべた。