質素な生活を細々と送ってきたリリアには城の生活は眩しすぎて仕方なく、ここで暮らす者たちには、リリアの立ち振る舞いや食事の仕方も粗雑に見えていたことだろう。
リリア自身も、例え数年後でも、立派な淑女としてオルキスの隣りに立っている自分の姿が想像し辛かった。
オルキスの傍にいたい。そう強く思えば思うほど、あまりの大きな差に圧倒され、自分に自信を持てなくなっていく。
表情を曇らせたリリアに気付き、瞳に不思議そうな色を浮かべたオルキスの元へと、急ぎ足でアレフが歩み寄ってきた。
「オルキス様、どうしてこのようなところに。城の中を探し回ってしまったではないですか」
「あぁ。すまない」
向き合うように立っているボンダナとリリアや、そんなふたりを興奮気味に見つめている城の者たちをちらり見てから、アレフは身を屈めて、椅子に座っているオルキスの耳元へと顔を寄せた。
「先ほどの男ですが……」
そうっと告げられた事実に、オルキスは視線を伏せて、小さく息を吐き出した。
「……そうか。分かった、ご苦労」
そんなオルキスと、彼を不安そうに見つめるリリアを交互に見て、ボンダナも眉根を動かしながら大きく息を吐いたのだが、こちらに向かって大股で近づいてくる人物に気が付くと、表情を一転させ、笑みを浮かべた。


