幼いころのやり取りを思い出しながら、階下から響いてくる歯車が回る音と、窓の向こうを悠然と飛んでいく鳥の羽音に意識を委ねていると、オルキスの指先が優しくリリアの頬に触れる。
優しい眼差しに引き寄せられるように、リリアはきゅっとオルキスの胸に抱きついた。
「この町に着いてから、本当に母がこの地で生きていたのだと、何度も実感させられています。それは否定しないけど……でも私は、村長夫妻から母は病気で亡くなったと聞いています」
そしてリリアは生前のソラナの話もたくさん聞いている。
聞いた話の中にモルセンヌという地名は一度も出てこなかった。すべてはテガナ村での話だったのだ。
しかし時計塔の裏にはソラナの石像がある。あれはここから飛び降り命を落としたソラナを供養するためにたてられたものとしか思えない。
「なにが本当なの?」
不安いっぱいに囁いたリリアをしっかりと抱き締めてから、オルキスが力強く言う。