オルキスはリリアの手を離してその椅子へと歩みより、座面に置かれていた一冊の本を手に取った。


「無いと思ったら、こんなところに置き忘れてしまっていたのか」


その本がオルキスの私物だと知れば、無機質に見えていた室内が、急に柔らかい空気で満ちていくようにリリアには感じられた。

本が置かれていた椅子は、入ってきたものとはまた別の、大きな窓付が付いた扉のそばに置かれていた。

そのためリリアは思わず、そこに座り、窓から差し込む温かな日差しの中で本読むオルキスの美しい姿を想像し、熱く息をつく。

オルキスは本を座面に戻すと、椅子の傍らにある扉を一気に開け放った。


「おいで」


窓枠に軽く腰かけて、オルキスがリリアへと手を差し出してくる。もちろんリリアもすぐに頷き返してオルキスの手を取り、傍へと歩み寄っていく。

窓の向こうにはモルセンヌの可愛らしい街並みが、そして視線を遠くへ向けると、雄大な地がどこまでも広がっている。

美しい自然と、モルセンヌの洗練された街並みの対比がとても芸術的で、まるで有名な画家の描いた絵画のようだ。


「とっても綺麗。オルキスがここを一番好きな場所だと言った気持ちが、とってもわかるわ」